福祉資源の活用 2

もう一つ、福祉資源として注目してよいのはお年寄り自身です。


すでに老年人口が2割3割を超えて本格的な高齢社会に至っている地域では、しかも過疎化が進んでいるか、その後遺症に悩んでいる地域では、70とか75歳のお年寄りが一人で何役もの社会的役割を果たさなければ地域社会自体が維持できないのです。


語弊があるかもしれないですが、まだ元気なお年寄りが、朝からゲートボールでもあるまいと考えます。


全体として人数も少なく長寿がまれであった時代ならばともかく、余命が長くなり、高齢者の数も増えれば従来のようなお年寄りの生活様式も問い直されてしかるべきではないでしょうか。


自分たちの地域に支援の手を必要としている人びとがいれば、お年寄りでも元気なうちは毎日の生活の一部にお互いに支え合う活動を組み入れることは十分可能です。


お年寄りの福祉資源化といえばどこか冷酷に聞こえるかもしれないですが、できるかぎり自立して人間らしい老いを全うするためにも、お年寄りの社会参加活動の意義を重視したいのです。


さらに地域における福祉資源としては、非営利の民間団体が重要です。


・・・なかでも、市町村社会福祉協議会のあり方と、その財源としての共同募金のあり方は再検討が必要です。

福祉資源の活用

住民は、ほんとうに納得できれば、地域での生き方として自ら身銭を切って福祉資源となる行動を選ぶはずです。


・・・そのような住民が出てくるような地域の役所は、自治行政のまっとうな実践者であると考えられるでしょう。


福祉資源の活用を検討する場合、従来ならばお荷物ともみなされてきたものや人をむしろ有利なもの、不可欠な人と考えることが大切です。


そのような例としてここでは2つあげておきましょう。


一つは市町村営の病院です。


これまで市町村営の病院はほとんどが会計上は赤字です。


もとよりこのような公立病院が繁盛して黒字であるほうが不自然です。


財政的には負担となっている公立病院は、しかし、超高齢社会の到来を間近に控え、医療と保健と福祉のドッキングを実現していく上では極めて有利な条件となりうるのです。


福祉に冷淡な医師ないし医師会しかいない地域と比べれば、自治体の意向がより反映しやすい公立病院をもっていることは福祉社会の建設にとって明るい材料です。


それは単に総合的な福祉施設の展開にとってばかりでなく、病院に通う住民(特に老人)を減らすことで国民健康保険税の負担を軽減していくことにも効果をもたらすかもしれないからです。

新技術への大きな期待 10

ただし、商業的に十分利潤をあげるだけの量を生産し、あらゆるウイルス性疾患を治療できるといわれた薬の市場を同社が独占するまでには、この数字を何千倍にも高める必要がありました。


シェリング・プラウ社は、インターフェロンがガン治療薬としても広く用いることができる吋能性も匂わせたのですが、これは賢明ではありませんでした。


ガン研究に従艀している科学者は、その可能性を万に一つと考えていたからです。


・・・彼らの疑念は事実となりました。


より多くのインターフェロンが研究に使えるようになるにつれて、インターフェロンそれ白体はガンに対してほとんど効果がないことが判明したからです。


ほんのわずかな可能性が増幅されて確かな見込みへとすりかわっていくことは、このような熱狂の初期に見られる特徴的な現象ともいえるでしょう。


その後の数年間に、非現実的な希望が打ち砕かれ、人々が遺伝子工学を当初の期待を裏切るものと見るようになったのも避けられないことでした。

新技術への大きな期待 9

国営企業庁(特に、新技術の開発努力に対して、資本投下を行うことを目的として政府が設立した団体)でさえもそうでした。


危険が大きすぎるというのがその理由でした。


・・・ところが、何事にも慎重なチューリッヒの銀行家たちはそのように考えなかったのです。


かくして、バイオジェン社の研究所は、ジュネーブに設立されました(半導体の研究会社や遺伝子工学の企業が、世界で最もすばらしい土地に研究施設をつくるということは注目に値します)。


1980年、バイオジェン社はインターフェロンのcDNA遺伝子を大腸菌に挿入することに成功。


その発表を行ったのは、この耳慣れない新しい技術の将来を見通して、それに投資した多国籍製薬会社、シェリング・プラウ社でした。


この大腸菌は、1個の細胞当たり1時間に約2分子、つまり1パイント(約0・5リットル)の細菌培養液当たり毎秒約100万個のインターフェロンをつくり出しました。


この数字はさして驚くほどのものではありませんが、インターフェロンはきわめて効力が強いので、治療に必要な量はほんの少しでいいのです。

新技術への大きな期待 8

おもしろいことに、ソマトスタチンはジェネンテック社とカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の共同研究の成果であったのですが、インシュリンは、主として大手の製薬会社であるイーライ・リリー社の後援を受けたジェネンテック社単独の成果でした。


遺伝子工学は、学者の手を離れて市場へ出ていったのです。


米国でジェネンテック社が新聞の見出しを独占していた頃、ヨーロッパでは、チューリッヒ大学のチャールズ・ワイスマン教授率いる研究グループが、同じようなベンチャー企業を設血する計画を進めていました。


バイオジェンという名前のこの会社が最初に狙ったのは、インターフェロンという物質でした。


今や、組換えDNAが生み出す驚異的な成果についての噂は、大西洋を越えて大陸にも広まっていたので、ワイスマンは、ヨーロッパもこの驚異の新興産業に最初から加わることに資金を投じるであろうと孝えました。石塚孝一氏によると、当初、彼らは英国で資金を調達しようとしました。


これは、英国の大学の基礎.研究分野での強さや将来の産業の基盤を助成する政府の方針などから考えて、このプロジェクトが英国において理想的な投資対象となると確信したからです。


しかし、英国の銀行家は首を縦にふらなかったのです。

新技術への大きな期待 7

1978年の中頃、ジェネンテック社は次のような発表を行いました。


『Lacプロモーターを結合したインシュリンの遺伝子をプラスミド・ベクタ走組み込んで、それを大腸菌に入れ、この新遺伝子の指令に従ってヒトインシュリンを産生する細菌をつくり出した』


・・・というのです(同社が使用した遺伝子は、ヒトDNA由来のものではなく、cDNAでした)。


これは、「文法」上の違いにより、大腸菌内でヒトDNA由来の遺伝子は正常に機能しないと考えたためです。


当時、多数の患者の治療に用いていたのは、ヒツジやブタから取り出したインシュリンであったのですが、それさえも高価でした。


しかも、患者の中には、動物由来のインシュリンでは副作用が現れるために、ヒトインシュリンだけが有効な治療手段である者もいます。


医者は、インシュリンの投与を必要とする糖尿病患者全員が使用できる、安価なヒトインシュリンが入手可能になることを切望していました。


1978年にジェネンテック社が提供したのは、このように貴重な宝石であったのです。


その市場規模も並外れたものでした。


英語圏だけでも、200万人もの糖尿病患者がおり、そのうちのかなりの人たちが生きるために毎日インシュリンを注射しなければならないのです。

新技術への大きな期待 6

1977年当時、このような変異株は発見されていなかったので、ジェネンテック社は別の方法でこの障壁を乗り越えました。


彼らは、合成したソマトスタチン遺伝子を㎏遺伝子群に含まれているZ遺伝子の端部に連結したのです。


この組換えが施された新たな大腸菌において、ソマトスタチンの遺伝子は、Z遺伝子の末端部分として読み取られたのです。


その結果、大腸菌はこの遺伝子からZ遺伝子タンパク質にソマトスタチンタンパク質のアミノ酸がつながったタンパク質をつくり出しました。


大腸菌は、正常な大腸菌タンパク質と異質タンパク質が「合体」したこの生産物を正常な細胞成分と認識し、分解しなかったのです。


この手法には、さらに利点がありました。


というのは、大腸菌がこのタンパク質を自発的に液体培地中に分泌したのです。


これは、産生したタンパク質にシグナル・ペプチドがついているからです。


ジェネンテック社は、大腸菌の細胞を破壊して、他の大腸菌のタンパク質をごちゃ混ぜにすることなく、「合体」タンパク質を得ることができました。


次に1回の化学操作を行い、「合体」タンパク質からソマトスタチン部分を切り離し、目的のホルモンが得られました。


ソマトスタチンは前触れにすぎなかったのです。

新技術への大きな期待 5

こうしてできあがったものをプラスミドに組み入れ、そのプラスミドを大腸菌細胞に挿入しました。


すると、その大腸菌はソマトスタチンをつくり始めたのです。


産出量は、同数のヒト細胞がつくり出す量よりもはるかに多かったのです。


残念ながら、ここに1つの障害がもちあがりました。


これは、その後しばらくの間、遺伝子工学の歩みを妨げることになった一連の問題の1つです。


・・・というのは、大腸菌は異質なタンパク質が体内に満ちあふれることを好まず、そのタンパク質を元のアミノ酸に分解する別の酵素をつくり始めたのです。


つまり、操作した細菌は、猛烈な速度でソマトスタチンを産生するそばから、それを分解していきました。


その結果、細菌からこの物質を取り出すことができなかったのです。


今日では、異質タンパク質を分解する傾向の少ない(とはいえ、まったく分解しないとはいえませんが)大腸菌の変異株が見つかっています。

新技術への大きな期待 4

科学者と投資家の間に期待が高まっていきました。


新しい時代が幕を開けたのです。


ジェネンテック社は、この抗しがたい熱狂の波に乗ったにすぎません。


ジェネンテック社は、まさしく前の数章で見てきたような形で、こういった遺伝子操作を進めていき、さらに2、3の技術上の新たな成果ももたらしました。


ソマトスタチンは、ヒトの成長速度の調節に関与する短いペプチド鎖のホルモンです。


ソマトスタチンは、脳細胞内に存在するもっと大きなタンパク質が切断されてできるもので、この物質自体の遺伝子はありません。


そこで、板倉啓壱率いるジェネンテック社の研究チームは、その遺伝子DNAを化学的に合成することにしました。


すなわち、塩基を結合して2重らせん構造の形成に必要な2本のDNA鎖をつくりあげたのです。


次に彼らは、大腸菌が合成DNAを利用して確実にタンパク質をつくるように、この二重らせん鎖をLac遺伝子由来のプロモーターに連結しました。


こうすれば、確かに、この合成DNAは大腸菌に利用されることになり、タンパク質を生み出すでしょう。

新技術への大きな期待 3

そこで、新技術の著名な提唱者であるポール・バーグが呼ばれたのです。


皆が驚いたことには、その席で彼は、ジェネンテック社にいる彼の同僚研究者が、組換え遺伝子を利用して、ソマトスタチンというヒト由来のホルモンを合成する能力をもっている細菌をつくり出したと述べたのです。


実際には、細菌から得られるホルモンは徴々たる量であり、この発表は時期尚早の感も否めなかったのですが、ニュースは流れました。


ジェネンテック社は、さらに多くの支持を獲得するために、この発表を最大限に利用し、その後10年間、積極的な宣伝活動を展開したのです。


・・・とはいっても、同社は多大の支援を必要としませんでした。


新技術の安全性の問題をはじめて提起したアシロマ会議が開催されてからまだ5年とたっておらず、DNAの切断と結合に不可欠な酵素が発見されたのは、その会議の数年前にすぎません。


この新しい科学が誕生してから10年も経ずに、最初の商業製品が登場したのであれば、次の10年で何が飛び出してくるかわかりません。

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